もっと良くなるけど、今を忘れるから、残していこう / ジエン社「30光年先のガールズエンド」

 久しぶりにブログ記事を書いている。ジエン社の「30光年先のガールズエンド」を見て、文章を、記憶を書き留めなければと思ったのだ。

 「30光年先のガールズエンド」の公演会場は早稲田小劇場どらま館だった。早稲田駅からその劇場へと向かう道中、大学受験のときのことを思い出していた。18歳のぼくはこの道を歩いて受験会場へ向かっていた。あれからもう10年以上経ったのだ。
 たしかその時は大学生活のことを想像したりしていた。大学の演劇サークルはどんな雰囲気で、役者はどんな稽古をするんだろうとか。たぶん他にもいろんなことを思っていたはずなんだけど忘れてしまった。今は思い出せなかった。



「30光年先のガールズエンド」上演台本より

時間
 震災以後の現代。関東圏のどこか。おそらく今より5年後くらいの未来。
 しかしここの登場人物は、12年間の間を行ったり来たりする。しかし、その12年間で、社会情勢は一切変化しない。

場所
 舞台はスタジオ「ニューゲーム」という場所。東京の学生街の上る坂の上にある個人スタジオ。駅から17分かかる場所にある。個人が運営している音楽スタジオのためか、ところどころ素人仕事であり、防音は完ぺきではない。昔個人経営のカラオケ屋を改装したもののようだ。半地下にある場所。
 その、スタジオの待合室である。

(中略)

 乱雑な印象の空間。
 ただしこの空間もまた、12年間の時間の流れを行き来する。時間の流れを示すものは何も置かれていない。新しくも、古くも感じず、どこかがらんとした、長く放置された空き家のような雰囲気を醸し出している。

 「ニューゲーム」というスタジオの待合室で、18歳のガールズバンド「ワンドエイト」に「女に出会ってばかりの国」というフリーライターがインタビューをしたりする。「30光年先のガールズエンド」はそんな話だ。上で引用した舞台設定にあるとおり時間が行き来するので、年齢は18歳だったり30歳だったりする。



 『今の状態が、たとえば、30歳になっても、ずっとこのまま続くと思いますか?』 フリーライターは18歳の彼女たちに尋ねる。答えは無いまま、ほどなく話題は別のことに移ってしまう。でもきっと彼女たちは変わらず続くとは思っていないだろう。

はりつめ「……私、この曲のレコーディングのころもう先生になるって決めてたんだよね。」

(中略)

はりつめ「……音楽、続けないかもって思いながら、ベース弾いてた」

 30歳になった彼女たちは変わった。いろんなことを忘れながら。でも18歳の彼女たちもわかっていたんだ、自分たちが忘れるであろうことを。
 『30歳になった、自分がいたとしたら、どんな言葉を、かけてあげたいと思いますか?』 ワンドエイトのメンバーたちにそんな質問が向けられる。

長谷川「私たちの、音楽を、効いてほしいです。30歳の私に。」

(中略)

長谷川「たぶん、ロックじゃないと思うんで、30歳の私。私たち、忘れていると思うんで。だから……私たちの、音楽を、あのCDを、(手でCDを作る)コレを、聞いてほしいんです」

 そのCDはまだ存在しない、これからレコーディングするものだった。自分たちはきっと忘れてしまう。だからそのCDを、私たちの記録を未来に託すのだ。

長谷川「でも、私たちがもっとこれから、恋愛とか、楽しい事とか悲しい事とか、もっといろいろ経験したら、……もっと良くなる。もっとよくなる」



 はじめに書いた大学のことだけど、その大学は落ちてしまった。それから既に合格していた別の大学に入学した。演劇サークルに入ったり学生劇団の立ち上げに参加したりしたのだけど大学は中退した。もちろん18歳のころは中退するつもりなんてなかった。でも大学を辞めるのはぼくにとって不本意なことではなく「もっと良くなろう」とする気持ちがあってのことだった。

 ぼくもワンドエイトのメンバーたちと同じように、その頃からはいろんなことが変わった。役者をやりたかったが、今はそんなことはない。でもそれで良かったと思っている。

 そして彼女たちと同じようにぼくもいろんなことを忘れている。もっと良くなろうとするんだけど、その変わり何かを忘れてしまう。だから今、ぼくは書いている。彼女たちがCDをレコーディングしたように、記憶を残していこうと思うのだ。ぼくはこれからも忘れていくだろうから。

 
 


※文中引用はすべて「30光年先のガールズエンド」からです。劇場受付で終演後に販売されていた上演台本より引いています。そのため、実際の上演内容とは異なる可能性があります。